マイクロホンアレーの最適指向性設計

マイクロホンアレー

マイクロホンアレーとは、マイクロホンを複数並べたシステムです。次にマイクロホンアレーを示します。
マイクロホンアレー

マイクロホンアレーを使用すれば、ある音がどの方向から来たのかが分かります。さらに、ある方向の音を強調して受音する(これを指向性と呼びます)こともできます。これは人間の耳を思い浮かべてみれば理解できると思います。人間の耳は2つあるので1種のマイクロホンアレーです。私たちはどの音が大体どの方向から聞こえてきたのかが瞬時に分かります。さらに、意識すればある方向の音を強調して聞き取れます。例えばパーティー会場などの騒がしい環境で周りの人と会話できるのはこの機能があるからです。このように必要な音だけを聞き取ること(これを高S/N受音と呼びます)などを目的としてマイクロホンアレーは使われます。最近(2016年9月現在)では、主にカーナビなどの音声認識精度向上のために使われているそうです。

マイクロホンアレーが高S/N受音できる理由を簡単に説明します。説明のために2マイクロホンを用いた受音モデルを示します。

受音モデル

ある方向に存在する音源から発せられた信号は、まず音源に近いマイクロホンに到達します。そのため、上の図のように各マイクロホンの受音信号には位相差が生じます。この位相差は音源方向によって変化します。この位相差を0にして2つの信号をそれぞれ定数倍して足し合わせれば、その位相差に対応する方向からの音を強調できます。これにより高S/N受音ができます。マイクロホンアレーの最適指向性設計とは、最も適した複素重み係数(位相と振幅の変化量)を決定する問題です。実はこの問題はFIRフィルタ設計と全く同じ問題です。そのため、FIRフィルタの設計法がそのままマイクロホンアレーの最適指向性設計に使えます。次に線形計画法によって設計したマイクロホンアレーの指向特性を示します。

マイクロホンアレーの指向特性

この図より0度方向(マイクロホンアレー正正面方向)にピークがあり、その方向からの音が強調されることが分かります。複素重み係数を変化させるとピーク方向を変化させることができます。

再最適化

先に述べたような手法で設計した指向性は固定ビームフォーミングと呼ばれ、係数を変化させない限り指向性は不変です。使用環境が変わらなければそれで良いのですが、それは一般に考えにくいです。そこで再最適化と呼ばれる手法を用いて、指向性を徐々に変化させることを考えています。再最適化とは、線形計画問題において僅かに問題が変化した場合に少しの計算で再び最適解を得るといった手法です。これをマイクロホンアレーの最適指向性設計に対応させると、目的音源が少し移動しても素早く移動後の方向に指向特性のピークを向けることができます。線形計画法による設計は最終的に連立1次方程式を解いて係数を得るのですが、目的音源が移動したときに単純には連立1次方程式が解けなくなるというのがこの問題の難しい点です。2016年9月現在、この問題に悩まされています...。